月色相冠

5 まだ道の途中

 その後、多少時間は要したものの、主に燦と熾が音頭を取って落ち着きを取り戻したアドラは、議会を刷新して新しい体制を作り上げた。 燦はここで、エレアを通じてファルケに協力を求め、ファルケはそれを快諾した。 作業部会の一員としてスペクト入りした…

4 魔女の幕引き(下)

 フリッガの髪はランティスと一戦交えたときに、まとめた真上で切ったままだ。扉から伸びた廊下の光のほかには光源がないこの部屋ではグレーにすら見える、淡い茶色で短いけれども真直ぐなそれとは対象的に、ウェバの髪は闇に溶けずに浮いた。 肩口まで伸び…

3 魔女の幕引き(上)

 アドラ軍撤退の報が入った。 女王デュートを議長兼執行機関とし、首都グライトをはじめとする各地区から選出された新議員で構成するユーレの新議会は大いに沸いた。 デュートの采配の下、ユーレはアドラからの難民受入れを早々と議決した。都合のいいこと…

2 さよならを

 フリッガは周りを窺い、誰にも察されないように気をつけながらキャンプを離れた。 誰も同行させなかったのは、ランティスに敬意を示すためでもあるし——ほかにも理由がある。 指定された場所まではさほどかからない。キャンプからは高低差もないのでほと…

1 空と境界

 爛の要請を受けた燦は、すぐに行動を開始した。 ランティスらを見送った後も身を寄せたままであったナハティガルの市庁舎を降り、彼はニンバスに向かった。 スペクトと違いナハティガルでは彼の顔はそう知られてはいないとはいえ、そもそも今回の戦端とさ…

0 run;

 デュートは手当を受けた民家を出ると、フリッガが置いていったプレトには先に王宮で待機するよう申しつけた。黒い竜はろくに返事もせずに羽搏いていった。 身軽になった女王は、懐かしき我が家への道行きに市民を同行させた。一度断った靴は、踵の低いもの…

5 伝令、ひとつの空の下

 ヴィダは投げ捨ててしまった得物の片割れをうーから受け取り、それを揃えていつもの位置にしまって、さて、と呟きながら腰に手を置きテントの方に目をやった。 そのままジェノバにいろいろ尋ねれば、拗ねたような声ではあるものの返答はそれなりに返ってき…

4 砂煙の向こう

 背中に馬乗りのフリッガを振り返りながら、キュルビスは何か言った。フリッガは眉間に皺を寄せ、立ち上がるとキュルビスを引き上げた。 後ろ手に縛られたままの彼の衣服は、倒されたときに土で汚れている。それでも、その地位を表す四本のラインで裾を飾ら…

3 再び竜の舞う日

「さて、どうするね。ナイト=シュッツ・コンベルサティオ、いや。コンベルサティオ卿」 キュルビスは両脇に軍人を、背後に弓兵を従えて、片足を投げ出すように姿勢を崩し、腕組みをしながら言った。 デュートが隣を見ると、彼は相変わらずどうでもいいとい…

2 愛国者たち

 デュートは室内を見渡した。 議員が辞して、今残っているのは軍の関係者だけである。そして取り囲まれるように立っている、女王である彼女が名前を授けたナイトであるはずの彼の、今の立場は被疑者だ。 デュートから近い位置に陣取っていたキュルビスが一…

1 蛇と狼

 議員からいくつかなされた質問に淡々と答え終えて、フリッガは女王に一礼し謁見室を辞した。 これからすることは決まっている。元来た方へ足を踏み出すと、今閉じられたばかりの背後の扉がまた軋んだ音を立て、フリッガは思わず振り返った。 先ほど彼女に…

0 Dewte // null

サプレマに続いて入室した彼は、前回会ったときよりも少し痩せたように思いました。形どおりの労いの言葉をかけてから、サプレマから報告を受けました。残念ながらフリューゲルに至ることはできなかったこと。その理由も端的に。サプレマの声を聞きながらも私…