小説

 二日間の不在後、セドリックは何でもない顔をして、仕事に戻った。 溜まった仕事を片付けると、彼は人事に異動願いを出した。理由は「一身上の都合」。希望の移動先は、ルカの図書館の傍の警察署だった。 朝、ルカがいつものとおり図書館に出勤する。エリ…

 約束通りセドリックは二日間、職場からの連絡に一切応えなかった。 緊急時用に常に電源を入れてある通信端末の不在着信にも返事はない。メッセージも既読にならない。

 セドリックはその前日、全ての引き継ぎを終え、リアムに「明日から二日間は一切の連絡に応じられない」と念を押して帰宅した。リアムは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしていたが、セドリックはそれ以上のフォローは何もしなかった。 翌日、落ち着かない午…

 落ち着かない時間をやり過ごし、セドリックは予約の時間の十分前に図書館に戻った。 カウンターにはエリーがいて、セドリックを見るとレファレンスコーナーのほうを指差してくれた。ルカは彼女にセドリックの予約を知らせていたらしい。 セドリックはエリ…

 不意にルカがカウンターに手をついて立ち上がった。セドリックが振り返ると、後ろには本を三冊重ねて持った利用者が立っている。セドリックも立ち上がると、その利用者に頭を下げてカウンターを離れた。 少し離れた閲覧席に陣取って、ルカが貸し出し手続き…

「図書館ではない?」 セドリックが繰り返すと、ルカは頷くこともなく周りを見渡し、それからふたたび前を向いてセドリックを見た。「図書館のほかに、書庫、蔵書、コレクションなどの意味があります。文脈から限定ができない以上は一度、全ての可能性を検討…

 次の休みは平日で、セドリックは朝食をとってから家を出た。 彼は今、自家用車を持っていないので、図書館に行くには公共交通機関を使うか車を借りるしかない。さまざまな乗客が乗り合う地下鉄や電車は、彼にはうるさくてかなわないものなので、彼は迷うこ…

 昨日の晩に少し読み進めた本を持って出勤し、デスクに置く。見えるところにその本があると、何となく気持ちが改まる気がした。 いつも先に来ているリアムが、今日はセドリックより後に来た。セドリックがおはようと言うと、リアムは首だけで会釈をして隣の…

 帰宅して、玄関の鍵を開けようとしたちょうどそのとき、セドリックのスマートフォンには知らない番号からの着信があった。訝りながら応答するとそれはルカで、セドリックは急いで部屋に入ると椅子を引いて腰掛けた。「返却手続き終わりました」 電話の向こ…

 セドリックの勤める警察署にルカが現れたのは、その日の午後四時過ぎだった。セドリックが受付前のロビーまで出て行った、ほんの数分後のことだ。 ルカはいつもの黒いスーツの上に、薄いグレーのマウンテンパーカーを合わせている。サイズが二回りくらい大…

 普段の仕事に加えてその件の捜査協力までしていたので、セドリックは借りた本(そして、買った同じ本)を結局読み終えることができず、デスクに置いたまま返却期限を迎えた。 もっとも、今は手元に同じ本があるのだから、図書館の本は貸し出し延長をしても…