5 「おはよう、愛するひと」
フリッガが目を開けたときには、外はもう日が傾いて室内に届く光は赤かった。 とても、とても長い夢を見ていた気がする。 ぬるま湯の中のようなところで浮かんだまままどろんで、自分の心臓の音と、聞き慣れた心地よい声を聞いていた。 声が止んで、ゆっ…
6章 月色相冠小説,月色相冠
4 水底の庭(2)
たぶんこれがフリッガの本心なのだな、とヴィダは思った。 思考を共有すると最初聞いたときはさっぱり理解も想像もできなかったけれども、おそらくこういうことなのだ。 頭を占めているものは相手に伝えたいと思わなくても、そうして口に出さずとも、頭の…
6章 月色相冠小説,月色相冠
3 水底の庭(1)
深い、深い森である。樹冠は見上げた遥か上で、まっすぐ伸びた幹は枝打ちされた跡もないのに、手の届くところに枝葉はない。広がった梢はほとんど天に近いところだけ、その向こうの空の色は見えないが、晴れているならこんな程度の明るさではないだろう。その…
6章 月色相冠小説,月色相冠
2 バースデー
押し問答のようなやりとりを繰り返して分かったことがある。 語彙は極端に少ないわけではないが偏りがあるし、違う考え方が存在することへの理解も浅い。けれども便宜的にとはいえ固有の呼称を与えられた後の少女は、信じがたい速度で知識を吸収した。 規…
6章 月色相冠小説,月色相冠
1 「はじめまして」
カーラン・マリスの別荘は、アドラ国内の主要な景勝地には漏れなくと言っていいほどある。そのそれぞれが著名な建築家の手によるもので、中には美術的価値も認められるものすらあったが、所有者であるマリスは死ぬまで、そのいずれも公開はしなかった。 マ…
6章 月色相冠小説,月色相冠
0 Budd // null
同僚の遺体が目の前に転がっている。遠くで爆発の音が聞こえる。すぐ背後で火が爆ぜ、目の前の扉は吹き飛んで、閉じることはもうない。流れ出した培養液が広がっている。それでも、外に見える海は今日も静かだった。外と内を仕切るものも既にないというのに、…
6章 月色相冠小説,月色相冠