5 薄明、そののち
その前日の朝ヴィダが外に出たのは、フリッガがまだ起きないうちからだった。 ゼーレに同行してもらったので「ひとりで」という評価はたぶん正確ではないが、外から見ればゼーレの姿は誰にも認識できないし、少なくともフリッガのそばは離れている。 彼は…
5章 月色相冠小説,月色相冠
4 彼方の標
ガラス越しに見たデザートを目当てに店に入る。店員が一瞬ぎょっとした顔でこちらを見たが、ふたりにはもはや知ったことではない。というか、うーに至ってはおそらく一瞬とて気にしたこともない。人にあってはかなり不自然な髪や目の色を持つ竜は、そんなふ…
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3 黎明、その前
フリッガはその場所を思い出そうとしたが、どうしても無理だった。 仕方のないことだ。もともと知らないところなのだから。 水の膜のような、透明度の高いガラスが一面に張られた屋内にいた。ユーレにこんなに歪みのないものは少ないが、ドロッセルやスペ…
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2 夜と闇
それは、これまでのウェバの話からフリッガが想像していた彼女の像とはあまりに違うものだった。そあらは続けた。「とにかく、とても冷静で、そして慎重だと感じていました、最初は。けれども——そうですね、近所に子どもが生まれて、当時の私のマスターが…
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1 淀み、総ての集う場所
スペクトは周囲に壁を張り巡らせた都市だ。首都というだけあってその警備は、人・モノ・カネの行き来を促進することで成り立っていたドロッセルの比ではない。 人の背丈の四、五倍はゆうにあろうかという高さのその壁を、フリッガは外側に沿って歩きながら…
5章 月色相冠小説,月色相冠
0 suirann // #3c0-So/Bt
アドラは王制を敷いていない。なのにまだこの都市は王都と呼ばれる。かつてここを国の中心に据え、足がかりとして領土を増やしていった教主を、この国の者は今でも「王」と呼ぶ。一度たりとも王であったことのないそいつは、死してなおこの国に君臨している。…
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