9章

9 / 彼女の小さな世界

 鏡を前にして身なりを整える。いつもの髪飾りを外した分は、昨晩指に巻き付けておいた紐と、いつかクレタにもらったシルカの衣装の飾り紐を編み込み寂しくないようにした。 そうして準備を終え、少し緊張した面持ちでルーシェは窓際のデスクの椅子を引いて…

8 / 亡国の主従

 朝食を終えさせフォルセティを部屋に放り込んだシャゼリは、いそいそ出ていこうとしてフォルセティに呼び止められた。「今日はあいつ、おまえの相手できないんじゃないかな」 シャゼリは振り返り、なぜ、と聞いた。フォルセティは肩をすくめて答えた。「昼…

7 / 返書

 夕食のためにルーシェを呼びにきたエメルは、いっぱいに開け放たれた窓をルーシェが閉めようとしているのを見、手を伸ばして窓を閉めるのを手伝ってくれた。「ありがとうございます」とルーシェが言うと、エメルは少し困った顔で笑いながら聞いた。「虫でも…

6 / 日没、ふたりのだいじな話

 ネコを連れていても、ルーシェがフォルセティの部屋にたどり着くのは一苦労だった。とにかく広い城だし、何よりエメルを連れずにひとりで出歩いているところを城のものに見られたくなかったからだ。 わざわざ部屋を引き離したのだから、ルーシェとフォルセ…

5 / 智慧と知識

 シャゼリはマルクトの家に向かいながら、あの名のわからぬ男に教えてもらった市中の設備のコードをひとつずつ復習していった。 昨日あの男は家の外に出ると木の枝を拾い、敷地の角になっているところひとつずつに印を付けて家を取り囲み「虫除け」とやらを…

4 / 国のかたち、人のかたち

 次の朝、ルーシェはエメルに予告どおりに書状を託けた。中身は宛先以外のものが読むだろうから当たり障りのないものにした。王女と認められたと聞いてうれしい。シオンで別れて以来会っていないが、帰国したらもう会える機会はないだろうから、ハイロに逗留…

3 / 夕べの祈り

「やるの? ルーシェが?」 フォルセティは愉快そうな顔を隠しきれずに聞き、姿勢を正すと腕を組んだ。ルーシェは自信ありげに答えた。「ええ。お任せください」「じゃあお手並み拝見しようか。しっかりやってごらんなさい、本職の前だが」「もう。緊張させ…

2 / 涸れ川の町

 夕食前にひとりで戻ってきたシャゼリは、フォルセティの部屋の扉を閉めると興奮気味に大股でベッドまで近づいてきて、うつ伏せになっていたフォルセティを見下ろし言った。「すごいな、あの男。良い意味と、悪い意味で」「え? ああ、そう。良かったな」 …

1 / 王の血胤

 シャゼリたちを部屋から追い出し自由の身となったフォルセティは、足元の絨毯を蹴り上げ乱暴にめくるとグローブを外し、両膝をつくと床に四つん這いになった。 最初ここに来たときシャゼリに伝えたことは、もちろん嘘ではない。しかしあの罠の張られた部屋…