ある歴史の序文
ガイエルは、首都アズラスを擁するイェルファン州を筆頭とした十七の州からなる連邦共和国である。 建国当時の首都ハイロは、遷都から久しく経ち「古都」の呼び名がふさわしくなった現在でもなお、ガイエル有数の都市のひとつである。急峻な山並みを背にし…
アルモニカ 終章アルモニカ,小説
9 / ここからすべてを
ハイロの涸れ川を水が満たし、流れが緩やかになって市内も落ち着いてきたころ、城に新たな騒ぎがあった。壁沿いに水が流れ落ちる滝がシンボルの第二庭園に突然、一柱の竜が降り立ったのだ。あまり広くはないその中庭は、慌てて出てきた衛兵たちで大わらわに…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
8 / 歌を、あまねく
城内で必要な資料をかき集め、着替える時間も惜しんで城下のマルクトの家に向かったシャゼリを、イシトはその小さな庭の真ん中で出迎えた。「ずいぶん慌てているじゃないか」 ニヤニヤしながら言った彼の横を、シャゼリは両手いっぱいの資料を抱えたまま睨…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
7 / 羊飼いの夢
マルクトが振り向きながら立ち上がった。シャゼリはそれを手で制し、フォルセティの前まで歩いてきた。「陛下が呼んでる」「俺を?」 眉を顰めながらフォルセティが聞くと、シャゼリは頷いてからマルクトに言った。「俺と、こいつで呼ばれた」「……ご用件…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
6 / 未来の歴史
マルクトがフォルセティの部屋を訪ねてきたのはその翌日だった。フォルセティは書き物を、扉が開かれる前に荷物の下に押し込んで隠し、地べたに座った状態で彼を迎えた。 相変わらず監視役であるはずのシャゼリはいないのだが、マルクトは今日はそれを気に…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
5 / ふたりの母(2)
昨日までより少しだけ温かい風が吹いたその日、エリシュカは意を決してイヴァレットを訪ねた。 侍女を連れ、部屋を出て、女たちのどことなく侮蔑的な視線を浴びながら渡り廊下に向かう。その先の通路に沿って植わっている背の低い木は一見、相変わらず針金…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
4 / 煤と灰
ルーシェが部屋を抜け出た頃に、フォルセティもまた部屋を離れていた。と言っても彼が向かったのはシルカやクレタのところではない。床に這い、石と木とに神経を通わせ読み取った城の間取りを頼りに彼が初めて踏み入った図書室は、広さを知っていたはずの彼…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
3 / 火と灯
夜、オトを窓から放つと、ルーシェはしんと寝静まった城内に小さな明かりだけを手に踏み出した。 蔦虫を一匹、フォルセティのところに差し向けておいたから、彼女が今晩クレタに会う挑戦をすることは彼も知っている。でも彼は来ないし、ルーシェもそれを期…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
2 / 言祝ぎの庭
ルーシェはネコと顔を見合わせ、深呼吸をすると頷いた。「そのとおりです。彼は我が国のサプレマの竜」「こんな遠くまで。ご苦労なこと」 イヴァレットは少し意地悪く言ったが、ネコが澄ました顔を背けてしまったのを見、途端に申し訳なさそうな表情になっ…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
1 / ふたりの母(1)
それから数日が、何ごともなく過ぎた。ルーシェは部屋の窓を細く開けたまま虫の帰りを待ったが、戻ってきたものはなかった。 この無為な時間がなんのためのものなのか、ルーシェはもう知っている。そうして決断を迫られているフォルセティとは相変わらず食…
10章 アルモニカアルモニカ,小説
9 / 彼女の小さな世界
鏡を前にして身なりを整える。いつもの髪飾りを外した分は、昨晩指に巻き付けておいた紐と、いつかクレタにもらったシルカの衣装の飾り紐を編み込み寂しくないようにした。 そうして準備を終え、少し緊張した面持ちでルーシェは窓際のデスクの椅子を引いて…
9章 アルモニカアルモニカ,小説
8 / 亡国の主従
朝食を終えさせフォルセティを部屋に放り込んだシャゼリは、いそいそ出ていこうとしてフォルセティに呼び止められた。「今日はあいつ、おまえの相手できないんじゃないかな」 シャゼリは振り返り、なぜ、と聞いた。フォルセティは肩をすくめて答えた。「昼…
9章 アルモニカアルモニカ,小説