3章

令和4年3月3日(木)

 今朝のニュースの締めはひな祭りの話題だった。食卓を挟んで向かいに座ったお母さんは、横のテレビから前の私のほうへ顔を向け、じっとこっちを見た。 私は目玉焼きを、下に敷かれたベーコンごとご飯の上に移動し、黄身を突き崩しながら「なに?」と聞いた…

令和4年3月2日(水)

 昨日のもやもやが頭を占めたままだったので、私は今朝「お金払うから話聞いてもらっていいですか」とオオガさんに言った。 別に弁護士さんに聞きたいことはない。Win-Winな偽装結婚なんかただの妄想だし。でも、私の抱えるもやもやは誰かに聞いてほ…

令和4年3月1日(火)

 3月になった。あちこちで梅が咲いている。桜の開花予報も出た。私は昨日のうちに名前を書いておいた今月のカードを財布に入れ、家を出た。 先月のラジオ体操風カードは「なつかしさ」をテーマにリサーチして決めた。その方向性については、幼稚園みたいな…

令和4年2月28日(月)

 ラジオ体操風カードの最後の日が来た。私は今日も閉店ぎりぎりにスタンドに寄った。オオガさんは私からタンブラーを受け取りながらポットに手を伸ばした。 どうもあのステンレスのポットには、3、4杯分のお湯しか入らないみたい。タイミングによっては新…

令和4年2月26日(土)

 この時期、私の会社はほぼ休みなしである。春から大学生になる子たちが部屋を見に来るからだ。確かにネットの情報だけでも地域の雰囲気なんかもある程度はわかるけど、やっぱり実際来て見て感じられることは、どんなに高画質な動画から得られる情報よりも濃…

令和4年2月25日(金)

 私が初めてここに来たとき、このコーヒースタンドはまだなかったし、事務所にはインターホンも設置されていなかった。私と先輩は、外からガラスをトントンと叩き、掃き出し窓を引いて中に入った。 おじいちゃん税理士は奥のデスクについて、分厚い本で調べ…

令和4年2月24日(木)

 このコーヒースタンド(が間借りしている税理士事務所)は、私の会社の管理物件だ。 私は一昨年、大学を卒業した後地元に戻って、不動産を扱う会社に就職した。不動産といってもいわゆるデベロッパーみたいなかっこいいやつではなく、地域密着の、家族経営…