5 「そうだな。そうしたい」

 グレイとセドリックは少し話して、それからセドリックはひとりで考えて、最後にライブラリに確認をとって、その申出を受けることにした。

 セドリックの見た目が変わらなくなってから二十年くらいになる。今、グレイはセドリックとほぼ同年代(ともすると、少し上)に見えるし、マーカスは完全に老人の域(ただし、年齢の割には元気)。セドリックは、グレイには自分もまた年を取らなくなったことを、少し前に話した。グレイは「だと思ったよ、気持ちわりいな」とは言ったが、半笑いだった。
「あんたルカに地獄の底までついていきそうだな」
「そうだな。そうしたい」
「あんたがBISECから派遣されてきたときは、ルカにはあんたが全部指示してるんだと思ってた」
「それは、じゃあ、僕の演技力が高かったということだ」
 グレイは、褒めてねえよ、と苦笑いしたが、今日はそんな軽口は叩かない。彼は今日は、リブラリア社の会議室にラップトップパソコンを一台準備し、それにあの入力デバイスを繋ぐと、その前の席をライブラリに譲り、会議用のスクリーンに投影された共有画面を見ながら、カメラの画角外の椅子を引いた。近くにセドリックがいる。
「カメラと音声はオフでいいんだよね。文字だけ」
 ライブラリがパソコンを指さしながら聞くと、グレイは「そうだよ」と答えた。
「おまえさんが俺とやったみたいな、あれだ」
「僕の判断で答えていいんだね」
 セドリックはため息をついて、会議室の外に目をやった。

 リブラリア社のオフィスは、ロンドンの中心部から少し離れた駅前にある。高層ビルはそれほどないが、向かいの建物もここと同じで五階建てくらい。大きな窓の奥に、働いている人々が見えた。何のオフィスかはわからない——けれども。
「ケースリンクは?」
「動いてるよ。個別問い合わせは今日は回答できないことにしてあるけど」
「たまってる?」
「たまってる。明日、忙しそう」
「それが今のきみの盾だ」
 ライブラリが瞬きをすると、パソコンから音がした。入室者があった音だ。入室者名はマシュー・ラングドン。対するライブラリは「ARIA」だ。
 最初に言葉を打ち込んだのはマシューだった。

 ——こんにちは、ARIA。今日はよろしく
 ライブラリは「はい」と打ち込み、続きを待つ。マシューはすぐに返事をしてきた。
 ——あのデバイスを使っているのは生体のはずですね。カメラとマイクをオンにしてもらえませんか。
 スクリーンで共有されているそのチャットを見、グレイは心配そうな顔でライブラリを見た。セドリックはスクリーンを凝視している。ライブラリは回答した。
 ——あなたのご所属をお聞かせ願えませんか。それによって対応を検討します。

 マシューからの回答には数秒のラグがあった。彼が答えた肩書きは、医療機器メーカーの従業員のものではなかった。
 グレイが天を仰ぐようにしてため息をつく。ライブラリはセドリックに目配せをすると、マイクを有効にした。マシュー側も対応するようにカメラはオフのままミュートだけを解除し、早速声が聞こえてきた。
「音声で?」
 ライブラリはその声に耳を澄ませたあと、数秒目を伏せ、それから口を開いた。
「ラングドンさん。あなたの横と後ろにいる四名……いえ五名かもしれません。その方々のお名前と所属もそれぞれの口からお知らせください。こちらには僕と、グレイ・モートン、それから僕のハンドラーがいます。探り合いは好みません。僕はAp–LX0001。おそらくあなたがたが探しているものです」