帰宅して、玄関の鍵を開けようとしたちょうどそのとき、セドリックのスマートフォンには知らない番号からの着信があった。訝りながら応答するとそれはルカで、セドリックは急いで部屋に入ると椅子を引いて腰掛けた。
「返却手続き終わりました」
電話の向こうのルカの声は淡々としている。そういえばエリーが、ルカにセドリックの連絡先を教えると言っていた。セドリックはさっき見たスマートフォンの画面が「非通知」ではなかったことを思い出しながら、聞いた。
「もしかしてそのためだけに連絡を?」
「あなたは気にしているかと思って」
「きみがちゃんとしてくれないとは思っていないよ」
「光栄です。では」
セドリックは慌てて引き留めた。
「ちょっと待って。今日」
今日、警察署で別れる直前にルカが言った「それに」の続きを聞いていない。セドリックは続けようとしたが、ルカのほうが先だった。
「それに、の続きですか」
「うん、そう」
「秘密です」
「意外と意地悪だね」
電話の向こうでルカが少し笑った音がした。セドリックはそれでなぜかとても満足した気になり、大きな息をつくと苦笑いしながら続けた。
「今度行ったときに聞くよ」
「そうしてください」
「じゃあ、おやすみ」
「はい」
通話の切れたスマートフォンの、暗くなった画面をしばらく見つめてから、セドリックは返却した本と同じ本を鞄から取り出し、その読みかけの頁に、自分の筆跡で書かれたあの手紙を挟んでおいた。
探せと言われた「your LIBRARY」は、当面、ルカのいる図書館ということに、しておく。