ルカがセドリックを案内したのは文学の棚だった。利用者は少なくはない。セドリックは少し周りを気にし、ルカに聞いた。
「自分で頼んでおいて何なんだけど、司書を独り占めするというのは」
「こちらの責任でやっていますから」
「なら、いいんだけど……」
とは言いつつも気の引けた顔のセドリックの前でルカは立ち止まり、横を向くと一つの棚を指差した。
「この中に、読んだことのある本は?」
「たぶん、ない。必要のあるものしか読んで来なかったから」
ルカはセドリックを一瞥すると、一冊の本を抜き出し、それをセドリックに渡した。
「必要かどうかは判断するのは、読んだあとのあなたですよ」
瞬きをしたセドリックに、ルカは続けた。
「ときには読んだ数十年後に、あるいは死を目前にして、初めてそれが必要だったと分かることもある」
「文学的だね」
「ここはそういうエリアです」
セドリックは苦笑いしながら、受け取った本のタイトルをなぞった。
帰路、立ち寄ったサービスエリアで、味がほとんどしないアイスティーを飲みながら、借りた本を数頁めくってみた。叙情的な表現は彼の苦手とするところだったが、素直に読んでいいと思えばさほど負荷でもなかった。普段やっているような、表に見えているものから内面を推し量る行為は、推測に推測を重ねるほど頼りなく、しかし重たくなる。
いよいよ水の味しかしなくなったアイスティーを置いて、彼は残りの帰路についた。
借りた本は、家に着いて最初に、ベッドサイドに置いた。