5章

7 鍵

 いつもの時間にアイザックが見回りに来たので、鎮静剤を入れてほしい、とセドリックは頼んだ。「眠れないんだ。このまま眠れなかったら間に合わなくなる」「ドクターは、今のあなたは起きているときのほうが脳を休めていることになるから、無闇に薬で寝るべ…

6 「ないこと」の意味

 ブンコが来なくなってから一週間が経った。 もう閉架の整理も終わった。ただ見当たらない記録があったから、セドリックは開架も一人で総ざらえした。 あの青年の名前をまだ思い出せない。これだけ記憶を整理し尽くしたのだ。ハネダが呼んでいた名前は、ど…

5 開架

 ハネダが色々聞いてくるので、セドリックは思い出せる限りで答えた。こうなった理由は、何かしようとして、それがたぶんうまくいかなくて、それで気がついたら。そんな要領を得ない回答。 ハネダは頭を搔き、「寝てる間は?」と聞いた。「この一カ月半の間…

4 白い床

 セドリックは、白い床に寝ている。投げ出された自分の手が見える。 床には白いタイル。どこかで見た気がするが、思い出せない。ひんやりして気持ちよかった。目を閉じて、眠った。 次に目を開いたときには、少し視野が広くなった。相変わらず寝転がったま…

3 こわれたもののなおしかた

 ブンコの部屋のセンサーが異常を示したのは午後三時ころ。数値を見たハネダは、少し前に新たに開発していたAp型を連れてブンコの部屋に走った。看護師の知識のある苗床に、A型としての身体能力強化は、とくに暴れる患者に対しては頼りになる。それでハネ…

2 ひとしずく

 開花期が明けても、ブンコは資料室に戻らなかった。 開花期前には、セドリックの情報整理を午前中に済ませた日には、午後は資料室に行っていたけれども——今の資料室にはブンコにとって、あまり関心のある場所ではなかった。BISECの人員不足は、資料…

1 足音

 その後、BISECの通常業務は停滞した。渉外本部が意図していたA型の新陳代謝促進という意味では、一応上手くいった。しかしそれは手段の一段階目に過ぎず、目的だった収支の改善にはほとんど結びつかなかった。外部に売却できるサンプルの入手が予定の…